経営・運営

記録にかかる時間は、いくらの人件費か

2026年7月26日 南方教育研究所合同会社

現場の記録は「業務」として語られることが多いのですが、経営から見れば、それは人件費です。毎日少しずつ発生し、月次では見えにくく、決算にだけ効いてくる種類のコストでもあります。

私は経営コンサルティングの仕事を経て、いまは放課後等デイサービス・児童発達支援の現場で使う観察記録のアプリを作っています。現場のみなさんに話を伺うなかで、「記録が大変だ」という声は必ず出てきます。ただ、それがいくらのコストなのかを数字にしている事業所は、あまり多くありません。この記事では、その置き換え方を整理してみます。

記録時間を、いったん数字にしてみる

私たちが放課後等デイ・児童発達支援の管理者10名に伺ったところ、記録にかかる時間には大きな個人差がありました。1人あたり3分程度で書ける方もいれば、15分以上かかる方もいる。「1時間で10人分書ける人と、0人の人がいる」という声もありました。(出典:当社による現場インタビュー10名・2026年6月)

ここで、ごく単純な計算をしてみます。あくまで前提を置いた推計です。

15分 × 5名 × 22日 = 月27.5時間。時給1,500円なら 月約41,000円、年間では 約50万円。これが「記録という作業」に対して支払っている金額のめやすになります。

同じ計算で、1人あたりの記録時間が 5分に収まっている事業所なら、月約9時間・月約14,000円です。その差は年間30万円以上。同じ人数・同じ稼働でも、記録の”型”と手順の違いだけで、これだけの開きが出る可能性があります。

数字は事業所ごとに変わります。大事なのは金額そのものではなく、自分の事業所で一度計算してみることです。「なんとなく大変」が「年間◯十万円」に変わると、打ち手の優先順位が変わります。

残業になっている場合は、もう一段重い

記録が就業時間内に収まらず、残業や持ち帰りになっている場合、コストはさらに上がります。割増賃金が乗るうえに、実際にはそれ以上に重いものがあります。

ひとつは、採用と定着への影響です。人材の確保が難しい事業であるほど、「毎日残って記録を書く職場」は選ばれにくくなります。採用にかかる費用は、求人広告費だけでなく、面接・研修・立ち上がりまでの時間を含めれば決して小さくありません。1人の離職を防ぐことは、記録時間の削減よりはるかに大きな金額になり得ます。

もうひとつは、記録の質が下がることです。時間に追われた記録は「今日も楽しく過ごしました」に収束します。それは半年後のモニタリングや個別支援計画の材料にならず、結局あとから思い出す作業が発生します。急いで書いた記録が、後の時間を増やすという構図です。

どこを削れるのか——3つの視点

記録時間を減らすというと「早く書く」と考えがちですが、経営として見るべき点は少し違います。

1. 書く前の情報を散らばらせない。 記録が重くなる原因の多くは、書く行為そのものではなく「何を書くか思い出す時間」にあります。その日のうちに、印象に残った場面をひとつ残す。それだけで、まとめ書きの負担は大きく変わります。

2. 型を揃えて、個人差を縮める。 3分の人と15分の人がいるとき、経営の関心は平均ではなくばらつきにあるべきです。うまく書ける人のやり方を”型”として共有できれば、新人の立ち上がりも早くなります。(関連:新人が育つ職場は、記録の「型」がある

3. 記録を”使い回せる”形にする。 日々の記録が、モニタリング・個別支援計画・保護者への連絡帳に流用できる形で残っていれば、同じ内容を何度も書き直す必要がなくなります。記録は「書いて終わり」ではなく、あとで使う資産として設計する。(関連:観察が積み上がっていれば、モニタリングは怖くない

明日からできること

よくある質問

Q. 記録の時間を減らすと、質が下がりませんか。 A. 「短く済ませる」と「効率よく残す」は別のものです。書く前の情報が整理され、型が共有されていれば、時間が減っても具体性はむしろ上がることがあります。逆に、時間に追われた記録は抽象的になりやすく、後の作業を増やします。

Q. うちは記録ソフトを入れているので、もう解決していますか。 A. 請求業務と記録を一体で扱うソフトは、多くの事業所で「制度上の義務を果たす」役割を担っています。一方で、観察の質を上げる・記録のばらつきを縮める・成長を追える形で残す、といった部分は空白のままになりやすい領域です。何が解決していて、何が残っているかを分けて見るのがおすすめです。

Q. AIに記録を書かせて問題ないのでしょうか。 A. 子どもの姿に意味を見いだすのは人にしかできない仕事です。AIの役割は、話した内容を文章の形に整え、書く負担を減らす”黒子”にとどめるのが適切だと考えています。何を書くかを決めるのは、いつも支援員の方です。

記録は、現場では「業務」、経営では「人件費」、そして子どもにとっては「その日の姿が残るかどうか」です。同じ時間の使い方でも、どの目線で見るかで打ち手は変わります。まずは一度、自分の事業所の数字にしてみることをおすすめします。

市場・収益構造・人材・記録を公的統計で数字にして整理した資料もあります。さらに詳しいレポート(PDF・13ページ)

筆者:南方翔守(南方教育研究所合同会社 代表)。東京大学法学部卒業。国家公務員、外資系経営コンサルティングファーム(KEARNEY)を経て、一人ひとりの個性がかがやく社会を目指して創業。放課後等デイ・児童発達支援むけの観察記録支援アプリ「そだちノート」を開発。

南方教育研究所合同会社
放課後等デイ・児童発達支援むけ観察記録アプリ「そだちノート」の運営元です。

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